【W杯】公営ギャンブルで日本を応援する台湾人と帰属意識について考えた

ロシアW杯日本対ベルギー戦。試合は後半3分、予想外に日本の先制。私が賭けた”先制ゴールは日本”が的中した。私は、台湾人たちと一喜一憂しながら日本戦を観戦していた。彼らも日本を応援している。

ここは「台湾運彩」と呼ばれる台湾の公営ギャンブル場だ。台湾のいたる所にある黄色が目印のお店。

目次

台湾の公営ギャンブルで見た台湾の原風景

W杯開幕直後、サウナ帰りに自転車を漕いでいたら、公営ギャンブルの前で大学生と思われる男たちが、TVを観ながら何やら騒いでいた。ワールドカップ賭博をしているんだなとすぐにわかった。

前述の通り公営ギャンブルは街の至るところにある。旧正月にスピードくじの類をやったことはあるが(台湾人は旧正月におみくじ代わりの運試しとしてスピードくじをする)スポーツ賭博はやったことがなく、興味はあった。台北で台湾人がやりそうなことは大体やってきたつもりだし、まだやっていないことがあれば、いつでも試してみたいと思っている。

週末の夜に台湾人の彼女を誘って、公営ギャンブルに行ってみることにした。試合はドイツ対スウェーデン。時間は深夜の2時だが、店内には男女3人組がいた。賭け方がよくわからない私と彼女が色々質問すると、笑うと優しい顔をする店長が賭け方を丁寧に教えてくれた。

勝敗(引き分け含む)、次のゴール、スコア、総得点数…。かなり多くの賭け方がある。店長に説明してもらいながら、彼女とオッズが表示されたPCをにらめっこした。「僕はこれに賭けてみる」”前半引き分け”を選んでみた。オッズは2.4倍。悪くない。

日本はスポーツ賭博後進国だ。下記の記事を読む限り政府はやりたいようだけど、賭博と言うと八百長の問題や、ヤクザなど闇ビジネスの介入の可能性もあり、進めにくいのだろう。

では、我が国のカジノ合法化に伴って、スポーツベットの実現はあるのだろうか?結論をいえば、その実現までには未だ多数のハードルが残されており、現時点での実現可能性はかなり低いといわざるを得ない。
スポーツビジネスとカジノの連携は進むか? 専門家が語る見通し

2019年に導入と言われたが、見送りになった野球くじの草案も酷かった。詳細な結果について予想はできず、試合結果を利用した”くじ”みたいなものだった。ここ台湾の公営ギャンブルは、ブックメーカーのように各種スポーツ賭博ができる。日本のJリーグもあるし、メジャーリーグもある。

彼女曰く、台湾の公営ギャンブルは認可制で、身体障碍者の1つのセーフティーネットになってるという。「あの店長は障碍者に見えない」と言うと、「恐らく彼の家族に障碍者がいるんだろう」と。

台湾政府のほうがスポーツ賭博に関して日本政府より寛容だと思うが、なるほどと思わざる得ない。ギャンブルを悪と捉える/結びつけるのでなく、弱者を救済するために利用する。優しい世界だと思った。

さて話を当日に戻す。私の勝ったドイツ対スウェーデンの”前半引き分け”は的中した。ビギナーズラックは海を跨いでも有効らしい。

味をしめた私は、翌日も彼女と夕飯に鍋を食べたあとに、再び賭場へ向かった。もちろん、日本へ賭けるためだ。この日は日本の2戦目となるセネガル戦。前日の男女3人組がまたいた。彼らは毎日来ているらしい。外でタバコを吸ってると3人組の1人の男性が話しかけてきた。

「日本に賭けたか?俺も日本応援してるぞ」
「日本の野球は好きか?どこのファンだ?」
「そうか巨人か。陽岱鋼の調子はどうだ?ところで横浜の筒香は良い選手だな」

多数派ではないが、日本の野球に詳しい台湾人男性は珍しくない。

中に戻ると彼の連れの女性2人が肉まんを頬張っていた。「1ついるか?」と聞かれた。あいにく、夕食に火鍋をたらふく食べてきてしまったと断った。気前のいい彼女たちは他のお客にも「肉まんいるか?」と聞いていた。日本ではあまり見ないが、台湾ではよくあることだ。

試合開始のホイッスルが鳴る。3人組と私と彼女。昨日からこの賭場の”いつメン”になっている我々は一喜一憂しながら試合を見届ける。

特に肉まんの彼女は”次のゴールはどちらのチーム”という賭け方が好きらしく、点が決まるごとに賭場備え付けのPCで忙しそうにオッズを眺める。まるでオフィスで事務仕事をしているみたいだ。

そんな時に異変に気付いた。どんちゃん騒ぎでサッカーを見ている我々の横でスキンヘッドのおじいさんは一心不乱に紙をこすり続けていた。スピードくじだ。サッカーなんて見向きもしない。まるで包丁を研ぎ続ける職人のようだった。彼の背中が”ミーハーさんたちご苦労なこった、俺はもう30年賭場に通っててね”と言わんばかりだ。

おじいさんはサッカーに一瞥をくれることなく時々「当たったぞ」と言いながらカウンターで換金して、また一心不乱に紙をこすり続けていた。私はこの賭場の雰囲気が一気に好きになった。気づくと、おじいさんはいなくなっていた。

ハーフタイムの時に買い増しした。店長は「日本の勝ちに賭けるだろ?」と焚きつけるくせに、私の彼女には「いっちょセネガルも買っておくか?」と言っていたずらに笑う。ちなみに、台湾では日本に賭ける人が多いんだろう。他の試合と比べると、明らかに日本のオッズが体感よりも良かった。

日本対セネガルは引き分け。賭博には負けたが、日本サポーターとしては悪くない結果だ。さっきの野球好きの彼は「日本おめでとう」と握手を求めてきた。店長はニコニコしながら「次の試合も絶対きて日本に賭けろよ!」と言っていた。

W杯が思い出させてくれる私たちの帰属意識

日本にいると気づきにくいことだが、海外居住者からするとオリンピックやW杯はナショナルアイデンティティーを再認識する場でもある。自身が日本人であるんだという意識。

日本で皆が当たり前のように日本を応援して、当たり前のように渋谷で騒いでいたら意識できないと思う。もちろんお祭りごとだからこそ、日本の一体感は羨ましい。しかし言い換えれば、自分が物理的に集団の外にいるからこそ、帰属意識を実感できる。

W杯を通じて多くの台湾人から「日本頑張れ!」と言われると、否が応でも日本人だと意識させられる。プレーするのは私じゃなくても。

普段、台湾人のような気分で台北での生活を過ごしているが、この時だけは「自分は外人で日本人なんだな」と実感する。

そして、世界には日本を応援する人もいれば、応援しない人もいる。これも帰属意識とナショナルアイデンティティーを実感させられる。

公営ギャンブルに行く数日前。深センでナンパした韓国人が韓国代表の初戦の時にちょうど台北の家に泊まりに来ていた。4年に1度のイベントだ。「一緒にTVで韓国を応援しよう」と誘った。

彼女がふるまってくれた韓国料理を食べて、おおいにマッコリを飲みながら一緒に韓国戦を見た。韓国人女性はやたら手料理とか良い食べ物を与えたがる。田舎のおばあちゃんみたいだ。もちろん私は韓国を応援した。試合は韓国の負け。

翌日は日本の初戦だった。日本の先制ゴールが決まると韓国人の彼女は「ちょっと複雑」と漏らした。私が不服そうにすると、最後まで応援してくれたが、本心はやっぱり違ったかもしれない。韓国人の友人から「なんで(昨日の)韓国戦を日本人と見たの?」とメールがきたという。仮に、彼女が「日本人と日本戦見て応援してる」なんてその友人に言ったら発狂しちゃうんじゃないか。

おいおい。同じ東アジア同士仲良くしようぜと私は思うのだが、これも1つの日本人に対する韓国人のナショナルアイデンティティーの表れだと思う。でも、私は気にしない。どこの世界でも同じだ。ファンがいれば、アンチもいる。大事なことは当事者である場合、アンチに対してもリスペクトの気持ちが持てるかどうかだ。

4年前のブラジルW杯にさかのぼる。当時、住んでいたシンガポール。英語学校の日本人たちと一緒に試合を見た。韓国人男性のクラスメートに「韓国の最終戦はお前と一緒に応援するから、日本の最終戦は俺たちと一緒に見よう!」と誘った。

私には、なんの魂胆もない。単純に彼のことが好きだったから誘ったと思う。彼は日本人の中に唯一、韓国人として来てくれた。そして約束通り、韓国戦は彼と日本人クラスメートと韓国料理屋でソメク(焼酎とビール)を飲みながら観戦した。

あれは「世界大会で近所のクラスメートの国が出てるんだからお互い応援しようぜ」という私なりのナショナルアイデンティティーだったかもしれない。

大事なことは尊重しあう気持ち

決勝トーナメント・日本対ベルギー戦。また彼女と一緒に例の公営ギャンブルに行った。店に入るなり「おお!日本代表のお出ましだ!」と店長が叫ぶ。既に入っていた10名ほどのお客が私に注目する。

あいにく日本代表のユニフォームは持っていないので、その代わりにと清水エスパルスのユニフォームを着て行った。月曜日の深夜2時だったので試合が始まるころにはお客も減って、3人組の男性と白髪のおじいさんがいた。

白髪のおじいさんは「お前日本人だろ?いくら賭けた?」と聞いてきた。私が「100元」と答えると「俺は1000元も賭けたのに!」と豪快に笑う。それを見て店長は「応援することが大事で金額は関係ない」と言った。

台湾特有のゆるい空気を発するこのお店が大好きだ。

「仕事デ若イトキニ日本ニ行ッタ」
「上野動物園ニ行ッタコトガアル」
「ブルーライト横浜ハ歌エルカ?」

おじいさんは試合中、お構いなしに片言の日本語で話しかけてくる。台湾の老人世代のナショナルアイデンティティーは日本にあるのかもしれないな。

台湾と韓国は日本統治という歴史的背景は似ているが、日本に対するナショナルアイデンティティーは大きく異なる。それはW杯を通して彼らの反応を見れば明らかだ。海外で外国人といるだけで、W杯が単なるサッカーの試合以上の意味を持ち始めるのは興味深い。

試合は予想外に日本が先制。さらに2点目。3人組の男性も日本に賭けていたらしく点が決まると「うおおお!」と一緒に喜びハイタッチをした。興奮は頂点に達した。多くの台湾人は無条件に日本に賭けているようだった。ベスト8が終わり、台湾公営ギャンブルの売上は50億元(約180億円)を超えたとTVで伝えられていた。

今回のW杯で異なるナショナルアイデンティーを持つ人間たちをリスペクトすること、それから目の前の外国人にとって私も1人の日本代表であることを実感した。しっかり自分なりに咀嚼して海外で生きて行こうと思う。

試合は日本の逆転負け。店を出る際に私は店長に「残念だけど仕方ない。今後の試合はもっと楽な気分で賭けれるよ」と言うと店長は優しそうな顔して笑った。

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